Like an Art BLOG

名古屋のプロダクトデザイン会社、ライカアートのブログです。

コンピュータはデザイナーから仕事を奪うか?

先日このような記事を見かけました。

nlab.itmedia.co.jp
直接今回の話とは関係ありませんが、記事の中に非常に興味深いエピソードがありました。

 

――最初は人間ではなくロボットの研究をしていたと。それはいつ頃の話ですか?

 自分のプログラムを開発して完成させたのが1980年前後ですね。「人が描いたスケッチ画から立体を読みとる」というプログラムを作りました。工業用図面とか、鳥瞰図とか、そういうデザイナーが平面に線だけで描いたような絵を見せて、それを立体化するというプログラムです。

 そこで、自分の作ったプログラムの性能を確かめるために、いろんな絵をコンピュータに見せて、立体として認識するか確認していまして。あるときエッシャーが描くような「だまし絵」――「不可能立体」と呼ばれる絵を見せてみたんですよ。

 

            だまし絵(不可能立体)の例

 

 不可能立体の絵なので、当然「そんな立体はない」とコンピュータが答えるのを期待していたら、そうではなくて、ちゃんと作れる立体として認識してしまって……。「人間の目には作れそうにないものが、実はコンピュータでは作れる」というそのギャップから、「なぜ人間は作れそうにないと思うのか?」という方向に興味が広がっていったんです。

 

デザイナーの特技のひとつに「いいアイディアを考える」というのがあります。

世間にはそう思われている、というほう正確ですが、実際デザイナーはたくさんアイディアを出す方法を知っています。

先人たちが発想法というものを確立させてきたからです。

 

例えば、縦と横にキーワードを並べていき総当たり表を作って、2つのワードの組み合わせからアイディアを考えていく方法があります。

ひとつの枠につき3分など、時間を区切ることで短時間にたくさんのアイディアを出す方法です。

発想「法」なだけに、機械的にそのルールに従えばよい、考える必要はない(良い案か吟味する必要はない)、というところがコツです。

 

これって、よく考えたらコンピュータのほうが得意そうですよね。

人の頭はありそうなことから優先的に考えるような仕組みになっているのに対し、コンピュータは優先順位をつけず、網羅的に考えます。

結果として、人が不可能立体と諦めた絵を、コンピュータはちゃんと成立した立体にしてしまったのです。

というわけで、アイディアをたくさん出す能力は今すぐにでもコンピュータに置きかえられそうです。

 

しかし、これがデザイナーにとって脅威かといえばそんなことはありません。

玉石混交のアイディアの中からキラリと光るグッドアイディアを選び出す目利きとしての能力こそがデザイナーの本質だと私は考えるからです。

ではコンピュータはその目利きになれるのでしょうか?

デザイナーは論理と感性を行き来する複雑な思考を経て良いアイディアを見出します。

今のところはコンピュータには無理だろうと高を括っていますが、論理はともかく、本質的にコンピュータにはあり得ない感性ですらもディープラーニングによって擬似的に獲得してしまうかもしれません。

よくわからないけどなんか面白そう!とこれまで学習したパターンから人間は思うだろう、という具合に。

ここまでコンピュータが発達してしまうと、いよいよ我々は職を失うのでしょうか?

 

しかし、やはり人間はそう簡単ではないと思います。

例えば、熱烈な人気が出る飲食店はチェーン店より個人経営の店であることが多いですが、そこにはデータや金勘定で作られたものより、作り手のこだわり、熱意がこもっているもののほうが何となく嬉しいという心理が働いています。

コンピュータにこれがベストですよ、と言われても何となくヘソを曲げたくなるかもしれません。

それが生物としてのプライドではないでしょうか。

 

(執筆:白川)

株式会社ライカアート

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